読んでみよう! 人権擁護法案

制作:久間知毅

 

こんにちは、組曲『微分積分』や「ニコニコ物理物語」、「ローゼ姉さんのドイツ語講座」をうpしております、久間です。

私自身、今でこそ某大工学部情報系学科を目指していますが、中学までは判事志望でしたので、結構法律に興味を持っていまして、学年末試験終了を待って現在話題となっている「人権擁護法案」の内容を知りたいと思いまして、法案や部会提出のアウトラインなどを読んでみました。

実を言うと、数年前に国会に提出されたほうの法案も読んで大反対したことがあるのですが、今回法務部会に提出された法案は随分変わっていましたので読み直して、その結果感じたことをお話しようと思います。ネタの特性上、文字が非常に多い動画になりますが、それは仕様とご了承くださいませ。

まずは目次をご覧ください。

 

1.人権擁護法案提出の背景

2.法案の概要

3.人権委員会

4.人権擁護委員

5.一般救済手続

6.特別救済手続

7.総評

 

さて、早速はじめますが、あらかじめご理解していただきたいことがあります。

うp主は、普段から創価学会と公明党の関係を非難しているようなタイプで、民団や総連に対してかなり厳しい意見を持っているということです。さらに言えば、憲法改正賛成派で、中国脅威論を普通に持っていて、アカが嫌いでもあり、麻生さんや安倍さんを普段から支持しています。あと、結論になってしまいますが、私はこの法案に「消極的に」反対です。

……まぁ、この後の展開的に、これ言っておかないといわれのない突っ込みが入りそうなので、一応やっておきます。

では、はじめますね。

 

1.人権擁護法案提出の背景

 

 まずは、論文みたいになりますが、この法案が出てきた背景を考えましょう。

 人権擁護法案という法案が出てくるということは、「人権を擁護する必要がある社会」である、と法案策定者が思った、ということです。

 実際考えてみると、「いじめ」の問題、「職場いじめ」の問題、「部落民との結婚」での調査依頼などの問題、「障害者の差別」問題など、残念ながら差別というのは存在しています。

 部落につきましては、うp主自身は全く感じたことがないのですが、事実として、そういう調査を依頼する企業や親というのはいるようです。年々減少傾向であるらしいのですが。

 それとは逆に、その「差別」を利用して逆差別をする部落解放同盟のようなエセ人権団体も存在していて、問題はより複雑といえるでしょう。

 そういう背景の下、国連からある要望が出されます。

 その要望というのが、刑務所における人権問題の改善というものでした。詳しくはパリ原則を参照ください。

 ともあれ、そんなこんなで提出された法案なんですが、いろいろと問題があったためまごつき、継続審議の末平成15年の衆院解散……郵政解散のときにお流れになりました。

 その後、平成17年に修正された法案が出されたのですが、自民党内の反対で流れて、このたび福田総理になり、推進派の古賀さんが党の中枢に戻ってきたこともあり、さらに修正を加えて法務部会で提出されたということです。

 このように、何度も廃案になっている法案ですが、その都度修正されていますので、「何度も廃案になっている」ことが反対の理由にはなりませんので、ご注意ください。

 

2.法案の概要

 

まず、人権擁護法案が何のためにあるのか、という第1条から。

 

第一条 この法律は、人権の侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防並びに人権尊重の理念を普及させ、及びそれに関する理解を深めるための啓発に関する措置を講ずることにより、人権の擁護に関する施策を総合的に推進し、もって、人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的とする。

 

まぁ、これに関しては『人権擁護法案』という名前から、当たり前のことしか書かれていませんので、省略。

つづいて、第2条です。こちらでは、対象とする「人権侵害」をきちんと定義しています。

 

第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。

 この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。

 この法律において「障害」とは、長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害をいう。

 この法律において「疾病」とは、その発症により長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患をいう。

 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。

 

 これ以降、「人権侵害」とは以上のようなものとお考えください。

 

3.人権委員会

 

 この法案の最大のポイントは、救済措置にあるります。

 正直、啓発活動とか広報活動とかは、我々に直接影響するわけではありません。実際この法案に言及するときは、救済活動と人事面の2つが語られることが多いです。

 そしてその救済活動をするのが、この法案で設置される『人権委員会』という組織というわけです。

 これは、国家行政組織法の第三条によって作られる委員会で、『三条委員会』とか『行政委員会』とか言われるもので、公正取引委員会とか、教育委員会とか、選挙管理委員会とか、会計監査院とかと同じ位置づけになります。

 

第二章 人権委員会

第五条 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項の規定に基づいて、第一条の目的を達成することを任務とする人権委員会を設置する。

2  人権委員会は、法務大臣の所轄に属する。

 

 委員会は省に属すということで、現状『人権擁護局』が置かれている法務省の外局扱いになるわけですね。他の委員会を見ていると、外局扱いでも独立性は高いというわけです。実際、公正取引委員会とか会計監査院は、独自に職員を採用したり、他の組織からの横槍で辞めさせにくかったりするのです。一応保険として第7条に記載されています。

 

第七条 人権委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。

 

そして、その人権委員会の構成ですが……

 

第八条 人権委員会は、委員長及び委員四人をもって組織する。

2  委員のうち三人は、非常勤とする。

3  委員長は、人権委員会の会務を総理し、人権委員会を代表する。

4  委員長に事故があるときは、常勤の委員が、その職務を代理する。

 

 実質3人、非常勤も合わせて5人で構成されることになっています。

 しかし、実際の業務は事務方がやるので、承認したり国会に報告したり等の最終決定に関わるので、問題はないでしょう。階層構造になるのはどの組織でも同じことですしね。

 さて、組織するからには欠格理由もいるわけで、それが第11条、第12条となります。

 

第十一条 委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
 一 禁錮以上の刑に処せられたとき。
 二 人権委員会により、心身の故障のため職務の執行ができないと認められたとき、又は職務上の義務違反その他委員長若しくは委員たるに適しない非行があると認められたとき。
 三 第九条第四項の場合において、両議院の事後の承認を得られなかったとき。

 

第十二条 内閣総理大臣は、委員長又は委員が前条各号のいずれかに該当するときは、その委員長又は委員を罷免しなければならない。

 

 独立性の高い組織ということで、辞めさせるには条件が厳しくなっています。これは他の行政委員会や裁判官と同じということです。

 もし簡単にやめさせることができるなら、圧力をかけて決を捻じ曲げることが容易になるというのは、司法の独立として中学校の公民で習ったかと思われます。

 さて、今度はその人権委員会メンバーがどのようにして決定されるか見てみましょう。

 

第九条 委員長及び委員は、人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、法律又は社会に関する学識経験のあるもののうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命ずる。
 2 前項の任命に当たっては、委員長及び委員のうち、男女のいずれか一方の数が二名未満とならないよう努めるものとする。
 3 委員長又は委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のため両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、第一項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。
4 前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。

 

 整理しますと、学識経験者で、男女の偏りなく、総理大臣による任命で、国会の承認が必要、ということですね。これは、似たようなもので言えば、大臣の選出方法と同じです。事実、行政委員会ですから、それくらい要件が厳しいんですね。

 しかし、公正取引委員会などは、天皇による認証も加わりますから、これも要件に加えてもいいかもしれません。日本は立憲君主制で、実質的なトップは首相になり、『総理大臣による任命』でも問題ありませんが……いくら『国会による承認』と縛りをつけても、やっぱり元首の認証という体裁は整えたほうがいいと考えます。

 なお、『人権委員に選ばれる要件が不鮮明だからダメ』という意見がありますが、これで不鮮明とか言い出したら、『国務大臣の人選は不透明だ』って話になってしまうので、的外れでしょう。さらに、国会による承認もありますから、民主国家としてこれ以上ない鮮明な人選方法ということになります。

 さらには、まだこれでもかって保険がかけてあるわけでして……

 

(公聴会)

第十七条 人権委員会は、その職務を行うため必要があると認めるときは、公聴会を開いて、広く一般の意見を聴くことができる。

(職務遂行の結果の公表)

第十八条 人権委員会は、この法律の適正な運用を図るため、適時に、その職務遂行の結果を一般に公表することができる。

(国会に対する報告等)

第十九条 人権委員会は、毎年、内閣総理大臣を経由して国会に対し、所掌事務の処理状況を報告するとともに、その概要を公表しなければならない。

(内閣総理大臣等又は国会に対する意見の提出)

第二十条 人権委員会は、内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対し、又は内閣総理大臣を経由して国会に対し、この法律の目的を達成するために必要な事項に関し、意見を提出することができる。

 

人権委員会が必要と判断すれば、公聴会を開いて一般の人の意見を聞き、毎年国会に報告……つまり、国民に活動を公表する必要があります。

国民は国会を通じて人権委員会の活動を監視することが出来るわけですね。

そして20条で人権委員会から内閣他行政機関に意見を出せます。向こうからも意見がくるわけですから、これで双方向の意見交換が可能となります。

人権委員会の組織については、ここまでとして、次は人権擁護委員についてです。

 

4.人権擁護委員

 

今までの人権委員会は。中央の話でしたが、今度は草の根的な話を始めます。

人権擁護委員という、人権委員会と名前がそっくりな組織ですが、これについては現行法……昭和24年に施行された人権擁護委員法を根拠にすでに活動をはじめています。

『現行法での人権擁護委員』は,法務大臣が委嘱した民間の人です。日ごろ地域に根ざした活動を行っている『民間』の人たちが、地域で人権侵害が起きないように見守ったり、啓蒙活動を行ったりするわけですね。だいたい1万4000名の委員が全国の各市町村区にいて、講演会や座談会を開催したり、法務局の人権相談所や自宅などで住民からの人権相談を受けたりしているらしいです。

 詳しくは、法務省の人権擁護局にアクセスお願いします。

ここで『現行法で』と但し書きをつけましたが、『人権擁護法案』ではこの人たちの立場が変わります。

 

第三章 人権擁護委員

(設置)

第二十一条 地域社会における人権擁護の推進を図るため、人権委員会に人権擁護委員を置く。

 人権擁護委員は、社会奉仕の精神をもって地域社会における人権擁護活動に従事することにより、人権が尊重される社会の実現に貢献することをその職責とする。

 人権委員会は、前項の人権擁護委員の職責にかんがみ、これを遂行するのにふさわしい人材の確保及び養成に努めるとともに、その活動の充実を図るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 

もともとはボランティアである人権擁護委員を、行政委員会である人権委員会の組織にする……要するに、国家公務員にするわけです。それ以外の内容は人権擁護委員法とほとんど同じだから、気にすることはないですね。

 さて、どんな人が選ばれるのかというと……

 

第二十二条 人権擁護委員は、人権委員会が委嘱する。
 2 前項の人権委員会の委嘱は、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が推薦した者のうちから、当該市町村(特別区を含む。以下同じ。)を包括する都道府県の区域(北海道にあっては、第三十二条第二項ただし書の規定により人権委員会が定める区域とする。第五項及び次条において同じ。)内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、行わなければならない。
 3 市町村長は、人権委員会に対し、当該市町村の住民で、人格が高潔であって人権に関して高い識見を有する者のうちから、当該市町村の議会の意見を聴いて、人権擁護委員の候補者を推薦しなければならない。
 4 人権委員会は、市町村長が推薦した候補者が人権擁護委員として適当でないと認めるときは、当該市町村長に対し、相当の期間を定めて、更に他の候補者を推薦すべきことを求めることができる。
 5 前項の場合において、市町村長が同項の期間内に他の候補者を推薦しないときは、人権委員会は、第二項の規定にかかわらず、第三項に規定する者のうちから、当該市町村を包括する都道府県の区域内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、人権擁護委員を委嘱することができる。
 6 人権委員会は、人権擁護委員を委嘱したときは、当該人権擁護委員の氏名及び職務をその関係住民に周知させるため、適当な措置を講ずるものとする。
 7 市町村長は、人権委員会から求められたときは、前項の措置に協力しなければならない。

(委嘱の特例)
第二十三条 人権委員会は、前条第二項に規定する市町村長が推薦した者以外に特に人権擁護委員として適任と認める者があるときは、同項から同条第五項までの規定にかかわらず、その者の住所地の属する市町村の長並びに当該市町村を包括する都道府県の区域内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、その者に人権擁護委員を委嘱することができる。

 

委嘱するのが法務大臣から法務省の外局である人権委員会に変わっていますね。

 ここでわかりやすく手順を説明すると……

 

市町村長「この人なら学もあって性格もいいから、人権擁護委員に相応しい」

市町村長「議会はどう思う?」

議会「おk」

市町村長「じゃあ人権委員会に推薦しよう」

人権委員会「○○さんですね……弁護士会と都道府県人権擁護委員連合会の皆さんはどう思いますか?」

弁&擁「おkで〜す」

人権委員会「じゃあ、○○さんに人権擁護委員を委嘱しましょう」

 

とまぁ、結構手間ですね。

でも、こうやって『選挙で選ばれた人を間に入れる』ことで透明性を実現しているのです。市町村長と議会は国民から選ばれてるわけですし。

地方議会レベルじゃ、ちょっとアレな人もいますが、それでも『選ばれた』わけですから、民主主義というシステム上仕方のないことです。

 それでも一応、中央……ここでは『総理大臣によって任命された人権委員会』が最終決定を行うってことで調整されます。推薦されなかったときも、特例でその地域に人権擁護委員を置くように定められていますし、問題ない文言だと思います。

ただ、弁護士会の意見を聞くっていうのが、少し気になります。市町村長自体が民意を汲み取る人であるのに、その後から民意と関係ない一私団体の意見を聞くわけですからね。

……あくまで『意見を聞く』だけですから、直接の影響はない、とも取れますが、何にせよ、推薦は市町村長で、最終決定は人権委員ということで落ち着きます。

 また、以前聞きかじったのですが、『人権擁護委員は外国人でもなれるからまずい』という人もいるらしいのですが……おそらく、それを危惧する人は、人権擁護委員に某国の人がなって、日本人に対してやりたい放題するんじゃないかということでしょう。

事実、隣国との問題を持っている日本では、そう思うのも無理はない気がしますが……というか、すでに裁判で『訴えたもの勝ち』的に仕掛けまくっている実態もありますが……ここではそこまで危惧する必要はないと思われます。逆に考えてみてください。人権擁護委員は、『外国人がなれる程度の権力』しか持ち合わせていないと。

それは、『公務員に関する基本原則』によるところです。

これは内閣法制局が昭和28年に出した見解で……

 

『公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである』

 

……というもの。これが『公務員に関する基本原則』。または『当然の法理』とも言われます。

確かに当然のことです。国家の意思決定に参加するレベルの公務員……要するに管理職に、外国人が就くことは、国家の主権問題になりかねません。

 ですが、ここで気付くと思います。

 人権擁護委員は外国人でもなれます。

 つまり、『国家の意思決定に参加するレベルの公務員』に当てはまらないわけです。

あとで説明しますが、人権擁護委員の仕事は広報活動と窓口業務くらいです。つまり、今までとはあまり変わりません。

 つまり今現在、人権擁護委員による反対派が言うような問題が起こっているかが、この法案施行後に問題が起こるかの目安になるわけです。

 しかし、うp主は残念ながら人権擁護委員がどうこうしたという話は聞いたことがありません。

さらに、修正案には、エセ人権団体……解同などが入り込まないように修正が掛けられています。これは、修正前の案を見ればわかります。

修正前22条第3項では『市町村長は、人権委員会に対し、当該市町村の住民で、人格が高潔であって人権に関して高い識見を有する者及び弁護士会その他人権の擁護を目的とし、又はこれを支持する団体の構成員のうちから、当該市町村の議会の意見を聴いて、人権擁護委員の候補者を推薦しなければならない。』と、なっていたのです。

これは、広島で部落解放同盟が教育現場に土足で上がりこみ、広島世羅高校校長の自殺の原因になった『八者合意』に似ており、いかにもエセ人権団体の香りがする文章だったのですが、これが削除されたということで、『そういう意思』があったと見ていいでしょう。

さらに、人権擁護委員は一般職の公務員でして、公務員法の対応範疇に当たります。よって、この法案に書かれていなくても政治活動ができないわけですね。

と、ここで疑問。人権委員会の方には、第13条に『政治活動の禁止』って書かれていましたよね?

それは、人権委員会の委員長および委員は、特別職だからです。公務員法では特別職の政治活動は禁止していないことは、国会議員やその公設秘書が特別職であることでわかることです。

この第13条のような文言は、同じ特別職である裁判官にも言えることですね。

 なお、『人権委員会』の方は『国家の意思決定に参加するレベルの公務員=管理職』に該当するから、日本人じゃないとなれないので、ご安心ください。

 

5.一般救済手続

 

いよいよ外殻に突入です。これからは、最初に『最大のポイント』と言った救済に関する活動を具体的に見ていきます。法案で救済活動が始まる事象は修正版第38条に書いており……

 

第三十八条           何人も、人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれがあるときは、人権委員会に対し、その旨を申し出て、当該人権侵害による被害の救済又は予防を図るため適当な措置を講ずべきことを求めることができる。
           人権委員会は、前項の申出があったときは、当該申出に係る人権侵害事件について、この法律の定めるところにより、遅滞なく必要な調査をし、適当な措置を講じなければならない。ただし、当該事件がその性質上これを行うのに適当でないと認めるとき、不当な目的で当該申出がされたと認めるとき、人権侵害による被害が発生しておらず、かつ、発生するおそれがないことが明らかであるとき、又は当該申出が行為の日(継続する行為にあっては、その終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、この限りでない。
           人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、職権で、この法律の定めるところにより、必要な調査をし、適当な措置を講ずることができる。
           人権委員会は、この法律の定めるところにより調査をした結果、人権侵害による被害が発生し、又は発生するおそれがあると認められないことその他の事由によりこの法律の規定による措置を講ずる必要がないと認める場合において、当該調査を受けた者から当該調査の結果についての通知を求める旨の申出があったときは、当該申出をした者に対し、当該調査の結果を通知しなければならない

 

見ていただければわかると思いますが、第2項に『不当な目的で申し出があった場合はつき返す』と書かれています。

 この『不当な目的』とは何か、ということは、法務省が部会に提出した『救済手続きの不開始事由に関する規則のアウトライン』や『人権委員会の判断の透明性に関する規則にアウトライン』……要するに、法案成立後に人権委員会の内部規定となるものに書かれています。

 

救済手続きの不開始事由に関する規則のアウトライン

第A条
 法第三十八条第一項の申出において人権侵害と主張される行為が次の各号に該当するときは、同条第二項に規定する「当該事件がその性質上これを行うのに適当でないと認めるとき」に当たり、救済手続きを開始しないものとする。
 一 特定の者の人権が違法に侵害されたものでないとき。
 二 歴史的事実の真偽、学術上の論争の当否、宗教上の教義等に関する判断を行わなければ、人権侵害に該当するか否か判断できないものであるとき
 三 特定の法制度が憲法に違反することを前提にしなければ、人権侵害に該当すると認められないものであるとき。
 四 明らかに裁量権の範囲内と認められる立法行為又は行政行為であるとき
 五 専ら公益を図る目的で、公共の利害に関する事実を摘示するものであるとき
 六 専ら公益を図る目的で、公共の利害に関する事実について、意見を述べ、又は論評するものであるとき
 七 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によるものであるとき。
 八 裁判所又は裁判官の裁判によるものであるとき
 九 当該行為に関する訴訟が裁判所に継続し、又は当該行為に関する訴訟が判決により確定し、若しくは確定判決と同一の効力を有する行為により終了しているものであるとき
 十 前各号に掲げる場合のほか、その性質上、人権委員会が取り扱うのに適当でないと認められるものであるとき

 

第B条

 法第三十八条第一項の申出が次の各号に該当するときは、同条第二項に規定する「不当な目的で当該申出がされたと認めるとき」に当たり、救済手続きを開始しないものとする。

 一 不当な利益を得る目的でするとき

 二 特定の団体の運動思想を喧伝する目的とするとき

 三 特定の者の社会的評価を貶める目的でするとき

 四 前各号に掲げる場合のほか、不当な目的ですると認められる事情があるとき

 

人権委員会の判断の透明性に関する規則にアウトライン

 1 人権委員会は、人権侵害等(差別助長行為を含む)の事実を認定するには、証拠に基づいてしなければならない
 2 事実認定に用いることが出来る証拠は、適法に収集されたものに限られ風伝の類の情報、報道機関による報道内容等は含まれない
 3 特別人権侵害につき勧告、公表の措置を執る場合には、被害者等関係者の供述内容は、争いのない場合を除き、供述書又は供述調書てなければ事実認定に用いるとはできない。
 4 特別人権侵害につき勧告、公表の措置を執る場合には、人権侵害等を行ったとされた者に対し、当該人権侵害等の事実の要旨を告げるとともに、弁明の機会を与え、反証を提出する機会を与えなければならない。
 5 人権委員会は、人権侵害等の事実を認定するには、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる程度の心証に基づいてしなければならない。

 

A条の一では、「違法に」という文言があります。

 これにより、「現行法で違反になる」行為でないとつき返せ、となります。

 A条の二では歴史的事実、学術論争、宗教上の教義などが原因で『人権侵害』と言ってきてもつき返せといっています。これは、よく言われるように『朝鮮人が強制連行否定を叫ぶ人を人権侵害で〜』というのはできないということになります。同じ理由で創価学会を批判したとしても、あくまで宗教上の問題ですので「ただの論争」扱いです。人権擁護法案の出る幕ではないわけですね。

 A条の三、四では、行政の裁量や司法で『違憲』だとされないことでは『人権侵害にならない』としています。つまり、自衛隊関係は違憲判決が出ていないので、その存在についての苦痛は人権侵害だと言えない、また靖国参拝にしても最高裁で結論が出ていないので(大阪高裁は違憲判断であって違憲判決ではないですし)、人権侵害ではないとされます。また、国旗国歌の掲揚斉唱にしても、行政の裁量なので『人権侵害』とはいえませんね。

 A条の五、六に関しては、例えば「金正日は拉致をしたとんでもない奴だ」という主張は、ただ事実を述べているに過ぎず、その言及なので意見や論評にあたるので、いくら『特定の個人』が相手でも『不当な理由』として突っ返されるのです。事実でない誹謗中傷でもない限り、現状の言論の自由が脅かされることはないと見て取れます。

 A条の七は、当たり前です。国会の決議を恒久的に縛るなんてできませんし。

 A条の八、九は、要するに『裁判で決着したことを人権委員会にゴタゴタ言うな』ってことです。

 B条に関しては、要するにエセ人権団体による逆差別ならつき返せという意味です。

 人権委員会の判断の透明性に関する規則にアウトラインを見てみますと、『適法で集められた明確な証拠がなければ人権侵害としてはならない』と書かれています。さらに、マスコミによる捏造を証拠としないとまでかかれています。

 このようなフィルタを潜り抜けるような、本来の意味での『人権侵害』が、この法案での救済対象となります。

しかし問題としては、不当な目的で申し出てもなにもペナルティを与えられないことが挙げられます。

一応、訴えたもの勝ちで不当に申し出て、さらに申し出たことを吹聴してきた場合は訴えられた方が人権侵害を受けたとして逆訴することは可能ですが……念のため明記したほうがいいかもしれないですね。

 次に、救済方法の説明です。

よく耳にする例では、『加害者等の本名等の個人情報を晒す』とありますが、これは『特別救済手続』に分類されるものです。

救済手続きには2種類ありまして、ひとつが『一般救済手続』、他方が『特別救済手続』となります。まずはこの章のタイトルである『一般救済手続』についてお話します。

 

第三十九条 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防に関する職務を行うため必要があると認めるときは、必要な調査をすることができる。この場合においては、人権委員会は、関係行政機関に対し、資料又は情報の提供、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 人権委員会は、委員、事務局の職員又は人権擁護委員に、前項の調査を行わせることができる。

 

 まずは、今説明しましたアウトラインとも関わりますが、「事実関係を調査」します。まぁ、これは当然のことですね。

 

第四十一条 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、次に掲げる措置を講ずることができる。
  一 人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれのある者及びその関係者(第三号において「被害者等」という。)に対し、必要な助言、関係行政機関又は関係のある公私の団体への紹介、法律扶助に関するあっせんその他の援助をすること。
  二 人権侵害を行い、若しくは行うおそれのある者又はこれを助長し、若しくは誘発する行為をする者及びその関係者(次号において「加害者等」という。)に対し、当該行為に関する説示、人権尊重の理念に関する啓発その他の指導をすること。
  三 被害者等と加害者等との関係の調整をすること。
  四 関係行政機関に対し、人権侵害の事実を通告すること。
  五 犯罪に該当すると思料される人権侵害について告発をすること。
2 人権委員会は、委員、事務局の職員又は人権擁護委員に、前項第一号から第四号までに規定する措置を講じさせることができる。

 

 これらが、一般救済に当たります。

整理すると……『相談に乗る』『関係団体を紹介する』『加害者等へ指導する』『両者の調整』『行政機関への通告』『告発』ですね。

 加害者等への指導は、要するに人権擁護委員に依頼して、『これは人権侵害ですよ』と教えるということ。両者の調整については、この後出てくる特別救済手続で『調停と仲裁』が書かれていますので、そんな強いことはできないと思ってください。

最後の『告発』は、犯罪に該当するときと定められていますし、それ以前に裁判所の預かりになるので、人権委員会が関わることではなくなります。つまり、この法案は関係なくなります。

第一、告発だったら人権擁護法案が成立しなくても、すでにできるわけですし。

つまり、一般救済とは、単純な意見の相違とか、つい言ってしまった程度のことを話し合いで解決するためにあるというわけです。この一般救済手続には、強制力を伴ったものは一切ないわけで、どうしても話し合い以上のことが出来ないのです。

さて次は、ある程度強制力のある特別救済手続について考えてみます。

 

6.特別救済手続

 

この第42条からが特に重要なわけですが、この42条、ものすごく長いわけでして……。概略はあとで述べるので、飛ばしたい人は少し飛ばすことをオススメします。

 

(不当な差別、虐待等に対する救済措置)

第四十二条 人権委員会は、次に掲げる人権侵害については、前条第一項に規定する措置のほか、次款から第四款までの定めるところにより、必要な措置を講ずることができる。ただし、第一号中第三条第一項第一号ハに規定する不当な差別的取扱い及び第二号中労働者に対する職場における不当な差別的言動等については、第六十三条の規定による措置に限る。

   第三条第一項第一号に規定する不当な差別的取扱い

   次に掲げる不当な差別的言動等

     第三条第一項第二号イに規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

     第三条第一項第二号ロに規定する性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

   次に掲げる虐待

     国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる職員が、その職務を行うについてする次に掲げる虐待

      (1)  人の身体に外傷が生じ、又は生ずるおそれのある暴行を加えること。

      (2)  人にその意に反してわいせつな行為をすること又は人をしてその意に反してわいせつな行為をさせること。

      (3)  人の生命又は身体を保護する責任を負う場合において、その保護を著しく怠り、その生命又は身体の安全を害すること。

      (4)  人に著しい心理的外傷を与える言動をすること。

     社会福祉施設、医療施設その他これらに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その施設に入所し、又は入院している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

     学校その他これに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その学生、生徒、児童若しくは幼児又はその施設に通所し、若しくは入所している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

     児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条に規定する児童虐待

     配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。次号において同じ。)の一方が、他方に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

     高齢者(六十五歳以上の者をいう。)若しくは障害を有する者(以下この号において「高齢者・障害者」という。)の同居者又は高齢者・障害者の扶養、介護その他の支援をすべき者が、当該高齢者・障害者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

   放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関又は報道機関の報道若しくはその取材の業務に従事する者(次項において「報道機関等」という。)がする次に掲げる人権侵害

     特定の者を次に掲げる者であるとして報道するに当たり、その者の私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害すること。

      (1)  犯罪行為(刑罰法令に触れる行為をいう。以下この号において同じ。)により被害を受けた者

      (2)  犯罪行為を行った少年

      (3)  犯罪行為により被害を受けた者又は犯罪行為を行った者の配偶者、直系若しくは同居の親族又は兄弟姉妹

     特定の者をイに掲げる者であるとして取材するに当たり、その者が取材を拒んでいるにもかかわらず、その者に対し、次のいずれかに該当する行為を継続的に又は反復して行い、その者の生活の平穏を著しく害すること。

      (1)  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又はこれらの場所に押し掛けること。

      (2)  電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信すること。

   前各号に規定する人権侵害に準ずる人権侵害であって、その被害者の置かれている状況等にかんがみ、当該被害者が自らその排除又は被害の回復のための適切な措置を執ることが困難であると認められるもの

 人権委員会は、前項第四号に規定する人権侵害について、調査を行い、又は同項に規定する措置を講ずるに当たっては、報道機関等の報道又は取材の自由その他の表現の自由の保障に十分に配慮するとともに、報道機関等による自主的な解決に向けた取組を尊重しなければならない。

 

参考資料:第3条

(人権侵害等の禁止)

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。

   次に掲げる不当な差別的取扱い

     国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

     業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

     事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)

   次に掲げる不当な差別的言動等

     特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

     特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動

   特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待

 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

   人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

   人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

 

はい、ものすごく長いですね……。

 途中で「第三条の〜」と引用がありますので、参考として追加で載せておきます。

 さて、以上のことを纏めますと、

 

・公務員や福祉関係者、学校関係者が保護対象とすべきものに、現行法で罰せられるようなことをした場合。

・DVや児童虐待をした場合。

・公務員や商売人などの公共性のある人が、業務中に人種等(第2条参照)で差別的な取り扱いや差別的言動をした場合。

・職務上の権力を用いたセクハラを行った場合。

 

 こんな感じです。

 なお、第3条第1項二のイで『特定の者』と書かれており、さらに『人種等』という第2条の規定もあり、例えば「中国人はマナーが悪い」と言っても、「不特定」多数相手ですので引っかからないわけです。……そもそも、事実を事実と言って(ry

第一、この法案のきっかけであるパリ原則を考えると、『公務員による人権侵害を抑制するため』という理由がこの法案の根幹であるわけですよね。

 

今取り上げたものを、もっと完結に3点にしますと、

 

・公共性のある者が業務において差別的な扱いをした場合。

・酷い差別的言動をした場合。

・虐待をした場合。

 

……にまとまります。

また、これらもアウトラインの不開始事由でフィルタリングするわけです。

さらに、42条で『相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの』と縛りを強くするわけで、かなり限定的なことをしないと特別救済のための要件は満たさないわけですね。

しかし、この条文には、重大な欠陥があります。

……と言っても、実はここは書かれていないのですが……『マスコミ条項』と呼ばれる、第42条の四が、実は当面凍結されることになっているのです。

しかし考えてみてください。現状、もっとも権力が強く、差別を行っている機関はマスコミです。さらに、マスコミと不当な申立者が結託して、『●●の人権侵害に人権救済申立をした!』とデカデカと宣伝することが、これまでのマスコミの行動を見る限り十分考えられます。たとえ不当な申し立てで蹴られたとしても、『捏造は大きく、訂正は小さく』を行われたら世間的には『あいつは人権侵害をやった』と誤認させることができるわけです。そのためにも、守秘義務も含めて書くべきでしょう。

さて、直接ではなく助長行為の方ですが……

 

(差別助長行為等に対する救済措置)

 第四十三条

 人権委員会は、次に掲げる行為については、第四十一条第一項に規定する措置のほか、第五款の定めるところにより、必要な措置を講ずることができる。

 一 第三条第二項第一号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの

 二 第三条第二項第二号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らかであるもの

 

 よく誤解されますが、この「おそれがあるとき」とは、「ある結果による波及効果によって人権侵害が起こると予想されうる」の意味であって、「ある結果」が起こった後のことを言っているのです。

 実際問題、アウトラインの不開始事由でのフィルタリング、第2条での定義、第42条での縛りがありまして、この文章で規制できるのは『部落名鑑』くらいなものでしょう。

 ではなぜ、『部落名鑑』と書かず曖昧にするのかというのは、もし『部落地図』という出版物にされた場合、法律の対象外となるからです。事実、事例というのは無限にあり、文章にある程度幅を持たせないと法律として機能しません。だから法律の文章というのはこんなにややこしい書き方がされるのです。

 なので、「曖昧」という批判は、「法律」というものを考えていない批判であるといえますので、ご注意を。

 ……というわけで、ここまで来てようやく特別救済措置が発動というわけです。

 まず、

 

第四十五条 人権委員会は、この款の定めるところにより、第四十二条第一項に規定する人権侵害(同項第一号中第三条第一項第一号ハに規定する不当な差別的取扱い及び第四十二条第一項第二号中労働者に対する職場における不当な差別的言動等を除く。以下「特別人権侵害」という。)に係る事件について、調停又は仲裁の申請を受理し、調停委員会又は仲裁委員会を設けて、これに調停又は仲裁を行わせるものとする。

 

この仲裁委員会は、『公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律』という明治時代からの法律を根拠にしています。つまりは現行法です。他には、法案57条にも記載されています。

 つぎに調停です。

 

第五十条 調停委員会は、人権委員会の委員長若しくは委員又は人権調整委員のうちから、事件ごとに、人権委員会の委員長が指名する三人の調停委員をもって組織する。

 調停委員のうち少なくとも一人は、弁護士となる資格を有する者でなければならない。

 

 以下続きますが、要するに『和解』ですね、これ。両者の言い分を聞いて互いに同意できるような案を出して、「これでいかが?」とやるわけです。なお、強制力はありませんので、問題ないかと。

 

さらに、この仲裁と調停は、

 

第四十六条 特別人権侵害による被害について、当事者の一方又は双方は、人権委員会に対し、調停又は仲裁の申請をすることができる。

 当事者の一方からする仲裁の申請は、この法律の規定による仲裁に付する旨の合意に基づくものでなければならない。

 

第46条で書かれている通り、訴えられた側でも申請することが出来ます。

さらに、

 

第五十六条 調停委員会の行う調停の手続は、公開しない。

 

この調停は公開しないとされています。

つまり、訴えられた時点では、外から見れば何もわからないわけです。

この時点では、まだ訴えられたとしても人生棒に振るとかなんとか言われる事態にはなってませんね。

 続いて、皆さんが危惧する『勧告およびその公表』ですが……

 

第六十条
 人権委員会は、特別人権侵害が現に行われ、又は行われたと認める場合において、当該特別人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、当該行為をした者に対し、理由を付して、当該行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことその他被害の救済又は予防に必要な措置を執るべきことを勧告することができる。
 2 人権委員会は、前項の規定による勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の対象となる者の意見を聴かなければならない。
 3 人権委員会は、第一項の規定による勧告をしたときは、速やかにその旨を当該勧告に係る特別人権侵害の被害者に通知しなければならない。
 4 第一項の規定による勧告を受けた者は、当該勧告に不服があるときは、当該勧告を受けた日から二週間以内に、人権委員会に対し、異議を述べることができる。
 5 前項の規定による異議の申述があったときは、人権委員会は、当該異議の申述の日から一ヶ月以内に当該異議について検討をし、当該異議の全部又は一部に理由があると認めるときは第一項の規定による勧告の全部又は一部を撤回しなければならない。
 6 人権委員会は、第四項の規定による異議の申述をした者に対し、前項の規定による検討の結果を通知しなければならない。
 7 第三項の規定は、第五項の規定により第一項の規定による勧告の全部又は一部を撤回した場合について準用する。


 (勧告の公表)
 第六十一条
 人権委員会は、前条第一項の規定による勧告をした場合であって、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該勧告を受けた者がこれに従わないときは、その旨及び当該勧告の内容を公表することができる。この場合において、当該勧告について異議の申述がされたものであるときは、その旨及び当該異議の要旨をも公開しなければならない。
  一 当該勧告について異議の申述がされなかった場合
  二 当該勧告について異議の申述がされた場合であって、前条第五項の規定により当該勧告の全部の撤回をするに至らなかった場合
 2 人権委員会は、前項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告に係る特別人権侵害の被害者及び当該公表の対象となる者の意見を聴かなければならない。

 

このように、訴えられた側が異議申し立てする機会があります。さらに、勧告を受けてもただの思い違いとかで訴えられた側が謝った場合、そのまま非公開でことが終了します。

もし決裂したとしても、訴えられた側の異議申し立ての主張と共に公開されるので、本当に正当な理由があると確信する場合は名誉が保たれる仕組みになっています。

これだけ公平に意見を公表されるのに、『公表されたら社会的になんとか』というのは、この法案の問題ではなく、訴えられた人の周りの社会の問題でしょう。交友関係までいちいち法律に反映させるなんてナンセンスです。

もうひとつ、よく反対理由にされる、「調査に協力しなかったら罰金」ですが、ちょっと意味を取り違えていますね。法案で言うと、

 

第八十八条
 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の過料に処する。
 一 正当な理由なく、第四十四条第一項第一号の規定による処分に違反して出頭せず、又は陳述をしなかった者
 二 正当な理由なく、第四十四条第一項第二号の規定による処分に違反して文書その他の物件を提出しなかった者
 三 正当な理由なく、第四十四条第一項第三号の規定による処分に違反して立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
 四 正当な理由なく、第五十一条の規定による出頭の求めに応じなかった者

 

これに当たりますが、すべてに「正当な理由なく」と但し書きがついています。

そして、正当な理由かどうかを判断するのは『非訟事件手続法』により、裁判所です。そしてここから先は司法の問題です。行政の問題である人権擁護法案の範疇ではありません。さらに言えば、刑罰である『罰金』ではなく、『過料』です。

このように、正当な理由があれば拒否できますし、そもそもこれは令状がないので強制ではありません。

もし令状を取ってとなると、もはや司法の問題です。この法案の範疇ではありません。現行法を批判してください。

……とまぁ、書いてて思うのですが、実質強制ですよね、これ。

ですが、「児童虐待」などで保育所や幼稚園、親が拒否する場合があるので、ある程度の強制力は必要です。したがって、ここは司法の方で「実質的な強制」から「令状を持った強制」に変えたほうが一貫性の意味で正しいと思われます。

ともあれ、正当な理由で当該行為を行ったなら、堂々と主張すれば言いだけです。何の問題もないでしょう。

また、この『特別救済手続』には、人権委員会は関わりますが「人権擁護委員」は関わりません。前に説明したように、人権擁護委員は「窓口業務や広報活動しかできない」というのはこのためです。よって、権力がないから外国人でもなれる、というわけです。

 

7.総評

 

ここまで見てくださった方はわかると思いますが、このように特別救済手続によって個人情報が公表されるまでに、様々な段階を踏んでいます。したがって、よく言われるような極端な例……『創価を批判したら逮捕』や『北朝鮮を批判できなくなる』『外国人参政権反対といったら人権侵害』というのは、全くのデマとしか言いようがありません。

また、人権擁護委員の仕事は現行法と同じく窓口業務のみ。最終決定を持つ人権委員会委員は総理大臣による任命と国会による承認が必要と、民主主義という社会システムを持つ以上最高に透明性のある手続きを踏む必要があります。もし変な人が人権委員会に入ったらといいますが、それはこの法案の問題ではなく民主主義の問題です。論点が違います。

拡大解釈されるという意見も、的外れといえます。法律はある程度幅を持たせる必要があるので、他の法律を見てもらえばわかりますが、結構曖昧な書き方をしています。すべての法律は、拡大解釈しようと思えばいくらでも出来る代物ですので、拡大解釈の問題は『社会の常識』の問題であり、法案の問題ではありません。システムには常々限界が存在しています。昔の英国の首相も『民主主義は過去試された政治体制を除けば最低のものである』と言っている通りです。

実際この法案が可決されたとしても、我々の実生活では何の影響もないでしょう。

では、この法案の利点がないじゃないか、今ある様々な法律で十分じゃないか、という話ですが、少し考えてみてください。

部落出身ということで結婚に反対される、などの警察が動きにくい差別問題は、この法案が成立すれば今までと違った解決が見られるのではないでしょうか。

また、相談窓口を作る、という点において有用であるでしょう。現状では警察へ行って被害届を出すわけですが、皆さんそんなに気軽に警察署へ行きますか?

まだうp主は警察署に行けば親類が対応してくれるので構わないかもしれませんが、いきなり「最終手段」というのはいかがなものかと思います。それに、人権擁護委員の仕事は窓口業務。つまり、相談と斡旋です。よって、相談に乗りながら、人権侵害行為とされるものが犯罪なら、警察署を紹介するということができるわけです。現行法の穴を埋めるという意味でも、柔軟な対応が出来るという意味でも、これはすばらしいことだと思います。

しかし、最大の問題はマスコミ条項が凍結されていることです。

これさえ解除されれば、私はもろ手を挙げて賛同するのですが、この一事のために『消極的反対』という立場になっています。

ちなみに、解同がこの法案を推進しているというのは誤りです。解同はむしろ『糾弾会』が人権侵害認定を受けかねないこの法案に反対し、解同職員を送り込める民主党案を推進しています。なので、実際は自民側が民主党の人権侵害法案と対決していると見ることが正しいのかもしれません。

と、一通り法案を読んだ一学生の考えでした。

人権という問題は、非常に曖昧なものです。クーラーひとつで議論になるほどです。

しかし、誰しもぼんやりと、「人間らしく生きたい」と思っています。

そのために、不当な問題に対処するために、賛成派、反対派が大いに議論することは大切です。

と、ひとつの意見としての人権擁護法案を、終了させていただきます。

とても長い間視聴してくださり、ありがとうございました。

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